開発セミナー

今日の開発ランチは、
Cornell出身のDillonが、
"Estimation of a Dynamic Agricultural Production Model with Observed, Subjective Distributions"
http://research.briandilloneconomics.com/
を発表。

農業の生産活動は、
収穫までの間、継続した労働や、時期に応じた肥料、除草などが必要だが、
その一方で、収穫までの間に、天候や害虫、価格変化など、様々な出来事が起こって、
そのたびに収穫高の期待が修正され、
期待が修正されればそれが労働や肥料などの投入量にも影響を与える、
という非常にダイナミックな活動である。


Dillonの研究では、
タンザニアの農家を調査して、
収穫高の予想に関する情報を複数時点で取り、
その予想のもとに各農家が労働や肥料投入を最適化しているというモデルを作って、
農業のダイナミックな生産活動のパラメータを推定している。
従来の生産関数の推定では、
平均的に期待は正しい、
という仮定をおいていたが、
農家の予想を直接聞いて、それを推計にフォーマルに組み込んだのが主な貢献。


現在のところ、
農家は皆リスク中立的で信用制約もない、生産性も農家間で同じというRestrictiveな仮定が置かれているようだが、
生産活動は意思決定の連続で、
将来の状態に関する情報が明らかになるたびに行動が変化していく、
という、一収穫期間内のダイナミックな生産行動に焦点を当てたのは、
非常に面白いと思う。



一方、開発セミナーは、Pandeが
"Debt Structure, Entrepreneurship, and Risk: Evidencefrom Microfinance"
http://www.hks.harvard.edu/fs/rpande/papers/Debt%20Structure,%20Entrepreneurship,%20and%20Risk_Sep2011.pdf
を報告。


マイクロクレジットでは多くの場合、
融資を受けた直後に返済がスタートするが、
2か月の支払い猶予期間を導入したフィールド実験の分析。
2か月の支払い猶予期間の導入により、
・短期的にはビジネス投資が上昇し、長期的(支払い猶予期間導入から3年後)にも利益が上昇した
・利潤の分散は増え、債務不履行率も上昇した
・ビジネスにおける信用取引の割合が上昇
ということが示され、
融資を受けた直後に返済がスタートする今のマイクロクレジットの仕組みにより、
より収益率が高いがilliquidな投資を選ぶことを妨げている、
という主張をしている。


論文の構成が
実証結果の提示
→結果を解釈するためにケーススタディと理論モデルを提示
→推計されたパラメータと理論モデルに基づいて資本収益率を計算(ただしBack of Envelopの計算)
となっていて、
本当は先にデータ分析して後からその分析結果にあうように理論モデルをつけたのに、
論文中では先に理論を書いて、あたかもその理論モデルをテストした、
というようにPretendする論文が多い中で、かなり好感が持てた。


先にデータ分析して後からその結果にあうようにモデルをつけたのでは、
そのモデルにConsistentな分析結果になるのは当然であり、
有意水準5%」という概念自体が意味をなさなくなってしまう。
後から理論を思いついたなら、論文でも実証分析の後に解釈としてモデルをつけて、
このモデルが本当に現実を説明するモデルになっているかは
今後の厳密な実証分析にゆだねる、
とかするのが、誠実な論文のあり方じゃないかと思う。