Voting Technology, Political Responsiveness, and Infant Health: Evidence from Brazil

今週のDevelopment Seminarは、
PrincetonのThomas Fujiwara
"Voting Technology, Political Responsiveness, and Infant Health: Evidence from Brazil"
を発表。
http://www.princeton.edu/~fujiwara/papers/elecvote_site.pdf
よくDufloがパネルディスカッションとかで言及するペーパー。


ブラジルで1998年から電子投票が導入されたけれど、
電子投票の導入は、無効票を減らすという付随効果もあった。
無効票は字が読めない低教育層の人たちに多い傾向があるため、
電子投票により低教育層の人たちの無効票が少なくなり、
低教育層の人たちの票が重要になる → 政治家も低教育層向けの政策を実施
という効果が期待される。


ブラジルの場合には、
電子投票の導入が40,500人以上の有権者がいる地域のみでしか行われなかったため、
40,500人をthresholdとしたRegression Discontinuity Designを使って、
電子投票導入の効果を推定している。
そして、「低教育層向けの政策」としては、
公的医療セクターへの支出(低教育層は収入も低いためPrivateでなく無料のPublic医療セクターを利用する傾向)
に注目している。


そして、推計した結果、
予想通り、電子投票が導入されたことにより、
公的医療セクターへの支出は増大。
それに伴って、低教育層の妊婦検診の回数は増え、低体重児の割合も減少している。
ただ、医療以外の支出については
Administration and PlanningとLegislativeが減った以外は、有意な変化はなし。


ただ、
論文中では、
低教育層の人たちの票が重要になったからpolitical economyのモデルによれば低教育層の人たち向けの政策にシフトするはずだ、
とか書かれているけれど、
1998年に40,500人以上の有権者の地域に電子投票の導入が行われたのは予算制約によるもので、
次の選挙(2002年)では、全地域で電子投票が導入されたわけだから、
純粋にpolitical economyのモデルに従えば、
1998年に電子投票が導入されなかった地域でも、
2002年に電子投票が導入されて低教育層の人たちの票が重要になるのを見越して、
低教育層の人たち向けの政策にシフトするはず。


また、1998年の選挙運動の時点では、
おそらく電子投票が低教育層の無効票を減らす、ということは予期されていなかったから、
電子投票が導入された地域で公約が変化したとも考えられない。


となると、
1998年に電子投票が導入された地域で医療支出が増えたのは、
純粋に低教育層の人たちが支持する政治家が増えて、その人たちが医療支出増大を支持したことによる効果(Composition effect)であって、
実質的な有権者の構成の変化に対して、政治家が選挙で選ばれるために最適な政策を変化させる、
というIncentive effectに注目したPolitical economyのモデルとは違う気がする。


モデルにあてはめてImplicationを導く際には、動学的な視点にきちんと注意を払わないとMisleadingになってしまうという良い例かも。