E-educationへの公開メッセージ

E-educationのアツのツイート
https://twitter.com/#!/AtsuyoshiGCC/status/174526806769143809
を受けて。


途上国の農村地域では、ほとんどどこでも優秀な先生不足が深刻。
インドの遠隔地域に行くと、
壁も屋根もないさびれた校舎があるだけで先生はやって来ず、
児童たちは村の寺小屋のようなところに集まって地元の人が組織するインフォーマル教育を受けていたりする。
ある程度は学べるとしても、高校進学、ましてや大学進学など夢のまた夢のような状況。


そんな中で、
E-educationでは、
東進ハイスクール型のDVD教育を導入して、
大学生のチューターによる指導のもと、
農村の貧困家庭の高校生の大学受験を応援し、
昨年度も十人の受講生の中から、バングラデシュ最難関のダッカ大学へ2名の合格者を出している。


アメリカではOpen educationのKhan Academyが有名だけれど、
英語での授業だし、翻訳するといっても同じカリキュラムが全世界で使えるわけでもない。
ICT教育では、習熟度に合わせた学習ができるようにPCのソフトウェアを取り入れようとする試みもあるが、
ソフトウェアを一から作らないといけないし、そのソフトウェアが本当に優れたものか予め保証できるわけでもない。


それに対して、E-educationは既にあるリソースを使っている分、多くの国に適用可能なプログラムだと思っている。
どの国にも教えるのが抜群にうまい名物教師、スーパースター教師は存在しており、
そのスーパースター教師の授業をDVDにして全国の学校、先生が来ないような遠隔地域にまで最高級の授業を届けようとする試みだ。


そして、Mobile learningやOpen educationで最近焦点になっているEngagement, Involvement, Commitmentの問題に対処するために(Mobile learningなどの普及によりアクセスの問題は改善されてきているが、遠隔授業では生徒が実際の授業と同じようには努力してくれない)、
大学生のチューターを導入して、
質問への回答、適宜の励ましを行うとともに、チューター自らがロールモデルとなって受講生にも自分もこうなれるという希望を与えようとしている。


この仕組み自体は、成果を上げるために重要なものだと思う。
しかし、チューターの大学生がいなければ、プログラムを拡張できない。
今のところ、チューター一人が担当しているのは20人以下。
何十万といる、E-educationを必要としている農村の貧しい高校生に対して、
サービスを提供できるようになるには、
何万というチューターがいなければならない。


チューターがいなければスタートできないなら"Open" educationは達成されないし、
今や途上国でも多くの人が使っている
携帯電話、
インターネットやチャット、
Facebook
また、Khan Academyも、
最初から今の形を想定していたわけではなく、
使いたい人が使えるようにして、いろいろな使い方をされて当初の想定とは全く異なった広がり方をしてたりする。
もしチューターやカスタマーケアができる人を送り込まなければサービスを提供しない形を取っていたら、
きっとその広がりはずっと制限されたものだっただろう。
成果を示すためのコアのプロジェクトとしてチューターを用いる今の形をどんどん改良していくのはもちろん大切だが、
別の地域では、もっとOpenにしてみて、
様々な形を試していってもいいんじゃないかと思う。
どこかでスケールアップのための次のイノベーションを生み出さないと、
結局限られた地域で実施して、そこそこ成果を上げる援助プロジェクトで終わってしまう。


チューターをつけてできる限り最高の環境を整えてあげ、
いろいろとカイゼンしていく、というのは、
どことなく日本企業のものづくりと似ている節がある。
「優れた特色を持つ商品を売る巨大企業が、その特色を改良する事のみに目を奪われ、顧客の別の需要に目が届かず、その商品より劣るが新たな特色を持つ商品を売り出し始めた新興企業の前に力を失う」
っていう、イノベーターのジレンマがあるが、
E-educationではバングラでの成功体験に縛られてカイゼンを繰り返すだけに終わらず、
どんどん破壊的イノベーションを起こしていってもらいたい。


Engagement, Involvement, Commitmentの問題というのは、
行動経済学やHeckmanなどの非認知能力の問題と関わってきて、
それは途上国の貧しい学生に関わらず誰もが勉強やトレーニングの際に抱える問題で、
これまで多くの人が色々考えてきながら決定的な特効薬はまだ見つからないようななかなか難しい問題だが、
ここを乗り越えられるアイディアが生まれれば、スケールアップの可能性はかなり高まりそうな気がする。
もちろん、DVD授業でのEngagement問題改善とは全く別の方向から、貧しい農村の生徒の学習を助けるアイディアが生みだされることも大いにあるだろうけれど。


と書いていたら、たまたまこんなページを見つけた。
"An essential skill for innovators and entrepreneurs is the ability to turn success into failure."
http://www.ssireview.org/blog/entry/turning_success_into_failure

イノベーターにとって必要なスキルとは、
成功を失敗にする能力。
とりあえず成功したが、それでは最初に思い描いていた最終的なゴールには到達できない場合がある。
その時に、成功したことを捨て、本当に最終的な目的は何なのか、そのために何が最も望ましいのか、常に考え続けること。
まさに、
"Turning success into failure by constantly refocusing on the ultimate goal"。
それが、本ブログのタイトルにも書いてある、ミケランジェロ
「我々にとって最大の危険は
高きを目指して失敗することではなく
低きを目指して達成することである」
という言葉が意図していることなのだと思う。



追記:
こちらは、途上国の高等教育充実にOpen and Distance Learningを使えないかというテーマについてのディベートブログ。
https://edutechdebate.org/open-and-distance-learning/are-open-and-distance-learning-the-key-to-quality-higher-education-for-all/?utm_source=feedburner&utm_medium=feed&utm_campaign=Feed%3A+EducationalTechnologyDebate+%28Educational+Technology+Debate%29&utm_content=Google+Reader#IDComment289146293