Khwaja and Mian (2008, AER)

火曜恒例のReading Group、今日は

Asim Ijaz Khwaja and Atif Mian (2008)
“Tracing the Impact of Bank Liquidity Shocks: Evidence from an Emerging Market,” American Economic Review 98(4), 1413-42


以下は人の報告を聞いた感想であり、自分で実際に読んだわけではないので、
間違いがあるかもしれない。


Pakistanでは、1998年に核実験が実施されて、
IMFなど国際社会からの制裁がかけられて、
それまではドル預金が自由にできたのが、
制裁後は、ドル預金を引き出すときは現行の為替レートでルピー建てでしか引き出せなくなり、
ドル預金の量が1998年2月を境に激減し、
それによって銀行も流動性制約に直面して貸し渋りが起こるようになった。
この核実験を契機としたドル預金引き出しによる流動性ショックをNatural Experimentとして、
流動性ショックが企業への貸し出しに実際にどの程度影響を与えているのか、
その影響を大きくこうむった企業はどのような企業なのかを分析した論文。


ただ、単純に核実験を契機とした流動性ショックをNatural Experimentとするのだと、
BeforeとAfterでしか比べられず、
貸出額の変化が流動性ショックによるものか、それとも単に時系列的な動きによるものなのか識別できないので、
「ドル預金を多く集めていた銀行ほどショックの度合いが大きい」ということを利用して、
銀行のFixed Effectを入れて、Difference-in-Difference的な分析を行い、
さらに、ドル預金を多く集めている銀行から融資を受けていた企業は、そうではない企業と異なった特性を持っているかもしれないので、
複数の銀行から借りている企業だけを母集団として、企業Fixed effectを入れて企業の特性をコントロール


分析の結果としては、
・銀行の流動性が下がると、Loan sizeも減少した
(the loan from the bank experiencing a 1 percent larger decline in liquidity drops by an additional 0.6 percent)
流動性が下がった銀行からの借り入れが減少しても、規模の大きな企業や政治家のコネクションがある企業は、ほかの銀行から借り入れを増やして、流動性ショックを相殺している
・しかし小規模でコネクションのない企業は、他から借りられずに流動性ショックを相殺できない
・(おまけで)小規模企業が流動性ショックをもろに受けてしまうことが、途上国でMiddle sizeの企業が先進国に比べて少ないことの一因ではないか
といった感じ。


流動性ショックによる貸し渋りは日本でも起きたしよく言われていることなので、
「なるほど、そうですか」
という感想なのだが、
Natural Experimentに加えて、
ドル預金の残高によって異なる銀行間のショックの程度の変動を用いることでDifference-in-Difference的な推計にもって行き、
複数の銀行から借りている企業だけを対称にしたことで企業Fixed effectをコントロールできるようにする、
という、Natural Experimentプラスアルファという形の推計は、
別の文脈でも結構多く見つかるかもしれない。


それと、
流動性ショックがあっても、銀行は銀行間貸し借りなど別のソースからの借り入れもできるはずなので、
流動性ショックが銀行の貸出額に影響を与えたというのは、
銀行も市場の不完全性に直面していることを示唆している、
というようなことが書かれていたみたいなのだが、
流動性ショックに陥った銀行のデフォルトリスクが増せば、
仮に市場が完全でもそのデフォルトリスクは利子率に反映されるはずなので、
流動性ショックに陥った銀行の借り入れ条件は悪くなって
結局流動性を十分保つことのコストがかかる結果貸出額を減らす、
ということもあるはずなので、
流動性ショックが銀行の貸出額に影響を与えた=市場の不完全性」
というのは、いささか短絡的に過ぎるように思う。