Doyle (2008, JPE)

昨日のReading Groupは、

Joseph J. Doyle Jr. (2008)
Child Protection and Adult Crime: Using Investigator Assignment to Estimate Causal Effects of Foster Care, JPE 116(4), 746-770

を同僚が報告。


アメリカで、家庭に問題がある子供をChild protection investigatorsが調べて、必要とあれば2年間くらい養子に出すプログラムがあるみたいなのだが、
養子に出されることで犯罪率にどのような影響があるかを調べた論文。


単純に養子に出されたことと犯罪率の相関を見ると、
養子に出されたような子供の家庭環境は相当悪いので養子に出された子供の犯罪率は高くなる、
という内生性の問題が出てしまうので、
なんとかIVを使って、養子に出されたことで犯罪率にどんな効果があるかのLocal Average Treatment Effectを見ようとしている。


論文でのポイントは、
Child protection investigatorsが誰になるかは、単純にローテーションで決まるため、
外生的にランダムに与えられると考えてよいこと。


誰が見ても養子に行かせる必要があるような子供の場合は、誰がChild protection investigatorであろうと養子となるが、
人によって判断が分かれるようなMarginalなケースでは、誰がChild protection investigatorなのかが養子に出されるか否かに影響してくると考えられるので、
Child protection investigatorsの情報をIVに使って内生性の問題をクリアしようとしている。
Child protection investigatorの特性によって養子に出されるかどうかが決まるのはMarginalなケースのみなので、その範囲にしぼったLocal Average Treatment Effectが推定されるパラメータとなる。


で、結果としては、
そのようなMarginalな状況で養子に出された場合、大人になって刑事司法制度に入る確率は2-3倍になる、
というもの。
つまり、養子に出されるとより犯罪を犯しやすくなる、ということ。
よかれと思っていて行っていた養子制度が、実際は犯罪を増やしていたということになる。


結果はかなりショッキングな結果なのだが、
IVの妥当性は、やや疑問が残る。
養子に出されたIVとして、Child protection investigatorsが、同じグループのChild protection investigatorsの平均と比べてどれほど多く養子に出す決定をしたかのIndexや、
単にChild protection investigatorsのFixed effectを使っているのだが、
Child protection investigatorの割り当て自体はランダムでも、
事後的には、偶然問題の多い家庭に当たったinvestigatorには高いIndexが、偶然問題の少ない家庭に当たったinvestigatorには低いIndexが割り当てられてしまうので、誤差項に含まれる子供の家庭環境の悪さとIVが相関してしまっている可能性がある(特にInvestigator一人当たりの担当する子供の数が少ない場合)。
その点では、Child protection investigationのFixed effectをIVに使った方がまだ信頼性がありそう。
でも、Child protection investigationのFixed effectをIVに使ったLIMLでも、
Indexを使った場合より推計値の値は小さいものの、正で有意なので、
「養子に出されるとより犯罪を犯しやすくなる」
という結論自体は、結構ロバストなように思える。
つまり、問題のある家庭でも、子供を養子に出すべきじゃない、ということ。
まあ、Investigatorによって判断が分かれる子供たちへの効果を対象にしたLocal Average Treatment Effectなので、
本当に家庭環境がひどくて誰が見ても養子に出すべきだと判断するような状況でも養子に出すと犯罪率が上がる、
ということを示したわけじゃないので、結果の解釈にはちょっと注意が必要だが。


メッセージとしては、
「養子に出すかちょっと悩むような場合には、養子には出さないようにしましょう」
というところかな。