Gine and Yang (forthcoming, JDE)

Gine, X., Yang, D. "Insurance, Credit, and Technology Adoption: Field Experimental Evidence from Malawi" Journal of Development Economics, forthcoming.

を読んだ。


マラウイで、ランダムに、
普通のマイクロクレジットを売る村と、
保険数理的に公正な価格に近い天候保険を抱き合わせたマイクロクレジットを売る村を決めて、
どちらのほうがTake-upが高いかを比べたRandomized Experimentの論文。


モチベーションとしてあるのは、
人々が、高い収量を実現することが実証されている新技術(新品種、肥料など)を採用しないのは、
高い費用を投入して不作になった時のリスクが大きいという理由が考えられるので、
農作物のリスクの大部分を占める天候に対する保険を一緒に提供すれば、
新品種や肥料を買うパッケージローンにより申し込むようになって新技術の採用が進むだろう、
という考え。


で、実際にRandomized experimentを行った結果、
予想とは逆に、
保険を抱き合わせた時のほうが、人々のTake-upが13%も低かった。


考えられる理由として論文があげているのは、
Limited Liabilityの存在。
マイクロクレジットを利用して、不作などになって返済できない場合は、
せいぜい収穫やMovable asset(TVとか)の一部を取っていくだけなので、
不作になった場合の実質的な返済額は少なくなっており、
すでに保険機能が埋め込まれているので、
天候保険を買っても、
天気がいいときは何ももらえないし、
旱魃などになって不作の時は天候保険が支払われるけど結局返済に使われるだけなので、
そもそも天候保険を買うインセンティブがない。


さらに、Limited liabilityが問題となるのであれば、
不作になった場合の所得が多いほど、Limited liabilityの問題が少なくなって、
保険に対する需要が大きくなるはずなので、
不作になった場合の所得の代理変数として教育水準を持ってきて、
教育水準が高い家計ほど、天候保険抱き合わせマイクロクレジットを買う確率が高くなるが、
普通のマイクロクレジットに関しては有意な効果がないことを実証し、
これをもって、Limited liabilityの議論の妥当性を論じている。


筆者たちは、保険と一緒にすればマイクロクレジットのTake-upがあがるだろうと思い込んでRandomized experimentをしたようなのだが、
あらかじめきちんとモデルを作っておけば、Limited liabilityが問題となるのはすぐに分かるはずで、そこをもっと突き詰める実験ができたはず。


一応、筋の通った議論にはなっているが、
本当にLimited liabilityで説明しきれるのかは疑問。


まず、ローンを借りておらず、Limited liabilityのない家計について見てみても、
天候保険の仕組みやベネフィットを理解していないせいもあって、天候保険の普及率はかなり低く、現状の保険プレミアムでは買いたくないと思っている人がかなり多い。
また、天候保険の仕組みを理解できる教育水準の高い人のほうが天候保険を買う確率が高い可能性も高い。
とすれば、
天候保険抱き合わせクレジットは、
普通のクレジットに対して、現行価格では買いたくないものを無理やり抱き合わせされてしまったクレジットなので、
普通のクレジットよりTake-upが低くなってしまうのは当たり前で、
それでも一応、教育水準の高い人のほうが天候保険の仕組みやベネフィットを理解できて買う可能性が高いので、
教育水準が、天候保険抱き合わせクレジットのTake-upに影響する、
という結果をもたらすことになる。
このような仮設も十分に考えられるので、
この実験だけからでは、
本当にLimited liabilityの問題なのか、
それとも単に、保険に対する需要の低さがもたらした結果なのか、
判断することはできない。
あらかじめモデルを作って、この二つの可能性を考慮しておけば、
もっとまともな実験デザインができただろうに・・・・


今日は新しい共同研究候補先を訪問。
アメリカ人のスタッフやNYに留学していた人がいるので、
マイクロ保険の共同研究先と比べてもはるかにやりやすいだけでなく、
来年の4月からちょうど新しいプロジェクトを立ち上げるところだそうで、
かなりタイミングもいい。
実際に共同研究できるかどうかは、まだ未定だけれど、
もとの共同研究候補先よりはるかに良いので、むしろ前のがキャンセルになってよかったかな。