Barseghyan, Prince and Teitelbaum (AER, forthcoming)

Reading groupで、

Barseghyan, Prince and Teitelbaum, "Are Risk Preferences Stable Across Contexts? Evidence from Insurance Data," AER, forthcoming

を報告。


Risk preferenceがContextによって変わることはラボ実験でよく報告されているが、
この論文は、
保険販売エージェントから得たデータを用いて、
実際の市場で保険を購入している人々のRisk preferenceが、
Auto Collision InsuranceとAuto Comprehensive InsuranceとHome Insuranceの間で
Consistentかどうかを実証した論文。


保険販売エージェントからデータを得ているので、
これらの三つの保険を購入している家計の情報が手に入り、
かつ、保険会社が各家計に提供している保険のメニューも、かなりの精度で推計できる。


手続きとしては、
実際の保険請求の頻度を、各家計の属性や保険会社がつけるリスク等級などに回帰して
各家計の事故率(保険請求率)を推計し、
その事故率のもとで、保険メニューの中から実際に購買した保険を購買することが合理化されるRisk aversenessの幅を、
Auto Collision InsuranceとAuto Comprehensive InsuranceとHome Insuranceのそれぞれについて
各家計ごとに構造推計によって求め、
人々のRisk preferenceが、Auto Collision InsuranceとAuto Comprehensive InsuranceとHome Insuranceの間で
Consistentかどうかをテストするために、
実際に購買したAuto Collision Insuranceの購買をrationalizeするRisk aversenessの区間
実際に購買したAuto Comprehensive Insuranceの購買をrationalizeするRisk aversenessの区間
実際に購買したHome Insuranceの購買をrationalizeするRisk aversenessの区間
が、それぞれ互いに重なっているところがあるかどうかを調べる、
というもの。


真の事故率でなく、推計された事故率を使っているので、
たとえRisk preferenceがConsistentでも、以上3つの区間で重ならないこともあるが、
筆者たちのシミュレーションでは、その確率は5〜6割程度なので、
それが基準となる。
で、推計結果を見てみると、
以上3つの区間がまったく重なっていない家計の割合が、23%もおり、
半分以上の家計のRisk preferenceは、3つの保険の間でConsistentでないことになる。
そして、Consistentでない家計の購買パターンを見てみると、
Auto InsuranceとHome InsuranceのRisk preferenceの区間が重なっていない場合には、
約85%の割合で、Home insuranceの方がよりRisk averseで、
Auto Collision InsuranceとAuto Comprehensive InsuranceとHome Insuranceすべてでまったく重なっている区間がない家計の場合には、
83%の割合で、
Auto Comprehensive Insurance、Auto Collision Insurance、Home Insurance
の順に、Less risk averse。


以上がメインの結論で、
この結果がRobustであることを示すために、
・保険請求率の推計の際のUnobserved heterogeneityが問題かもしれないが、データで観察される保険購買を正当化するような保険請求率を導くためには、データから得られるUnobserved heterogeneityの分散よりはるかに大きな分散を想定しなければならず、Risk preferenceがConsistentでないという結果は、保険請求率の推計の際のUnobserved heterogeneityの影響とは考えられない。
自動車保険の場合は、Auto Collision InsuranceとAuto Comprehensive Insuranceで、選択されているDeductiblesの額が全く同じであり、active decision makingをしなかった可能性があり、それがRisk preferenceがConsistentでないという結果を導いた、という仮説もありうる。しかし、実際には、Auto Collision InsuranceとAuto Comprehensive Insuranceで、選択されているDeductiblesの額が全く同じ家計の方が、Risk preferenceが重なっている割合が高くなっており、Risk preferenceのinconsistencyは、inactive decision makingのせいだとは考えられない。
・保険契約の多くは更新されている契約であり、意思決定がStickyだとすれば、彼らが最初に買った時の保険契約が重要で、その時にはRisk preferenceはConsistentだったかもしれない。そこで、保険契約に変化がない2006年以降に保険を購入、あるいは内容を変更したサブサンプルに限定して推計を行ってみたが、Risk preferenceがConsistentな家計の割合は、ほとんど変わらない。よって意思決定のStickinessと保険契約の変化が原因なわけでもない。
自動車保険と住宅保険の購入決定を行った主体は、前者が夫、後者が妻、という風に、違うかもしれない。そこで、自動車保険と住宅保険の購入の時間差が6か月以内、あるいは単身家計にサンプルを限定して推計してみたが、Risk preferenceがConsistentな家計の割合は、わずかに増える程度だった。よって、意思決定の主体の違いが原因なわけでもない。
・CARA utility functionで試してみても、結果は変わらない。
・Cumulative prospect theoryで使われているProbability weightingを組み入れ、Weightingのパラメータをいろいろ動かしてみても、Risk preferenceがConsistentな家計の割合は低いままである。
・Sydnor (2006)の研究によれば、住宅保険のDeductible choicesは、期待効用理論よりプロスペクト理論の方が当てはまりがよいということなので、Sydnorのモデルを当てはめ、Risk preferenceの代わりにloss aversionの区間が重なっているかどうかというテストを行ってみたが、重なる家計の割合は、さらに低くなった。
・保険請求確率の際に使った、誤差項が平均1分散αのガンマ分布に従うという仮定をゆるめても、結果に違いはなかった。
・モデルはTransaction costを無視しているので、Risk aversenessが最も高いという結果の出たHome insuranceに、100〜500ドルのTransaction costを入れてみても、Home insuranceのRisk aversenessの区間は低い方にわずかにシフトするものの、3つの保険のRisk preferenceの区間が重なる割合は若干上がる程度で、依然として低いままであった。なのでTransaction costが原因なわけでもない。
・モデルではMoral hazardは無視しているが、仮にMoral hazardが問題だとしても、Home insuranceの方でよりカバレッジの広い保険を購入しているということは、Home insuranceの方でよりMoral hazardの問題が深刻だという事実がないといけない。


などということを示している。


主要なメッセージとしては、
一つのContextから得たRisk parameterをExtrapolateして他のContextに使うのは正しくないかもしれないということ。
たとえば、
Investment choiceからRisk parameterを得てきて、
それを使って保険の需要予測をするとか、
Counterfactualとして保険が利用可能であった場合にどの家計が購入してその結果Volatilityがどの程度減ったとか、
そういうのは注意した方がよいかもしれない。
Risk parameterだけでなく、パラメータのContext dependencyは、構造モデルを使ってCounterfactualを実施する際には、一応常に注意を払っておいた方がよいのかも。


やや消化不良なところは、
Risk parameterがConsistentじゃないとして、
じゃあ、どんなTheoryで説明しうるのか、
というのがまだ出てきていないところ。

Risk aversenessは、
Auto Comprehensive Insurance < Auto Collision Insurance < Home Insurance
の順に、Less risk averseだが、
Premiumの額も、
Auto Comprehensive Insurance < Auto Collision Insurance < Home Insurance
なので、
このあたりに何かヒントがあるかもしれない。