Peer Effects and the Impact of Tracking: Evidence from Kenya

Kennedy Schoolで、Esther Dufloのセミナーに参加。


Peer Effects and the Impact of Tracking: Evidence from Kenya
というペーパーで、
Tracking(テストの成績に基づきクラスを決める)が子供の成績に与えた効果に関するケニアでのフィールド実験の報告。


Trackingにより、教師は生徒のレベルに応じた指導ができるようになるが、
もしも生徒が、優秀な生徒がいることからPeer effect(勉強を教えてもらったり、良い質問などで授業が分かりやすくなったり)の恩恵を受けていたりすると、
Trackingは、成績が良くない学生に対して負の影響があるかもしれない。


実験は、121の学校を対象に行われ、
教師を一人新しく雇う資金をあげてクラスサイズを80から40に減らし、
そのクラス分けを、
Trackingで行うか、Random placementにするかを、Randomに割り当てる、というもの。


モデルとしては、
生徒の成績が、過去の成績、Peer(クラスメート)の成績、教師の努力、教師によって選ばれる指導水準、
によって決まるようなものを考え、
教師は、テストスコアと給料を関連付ける賃金関数とテストスコアの分布を前提に、
指導水準の程度を決定する。
賃金関数としては、Linear, concave, convexの可能性があるが、
ケニアでは、テストスコアが高い生徒がいると給料が大きく増えるというConvex型の賃金関数になっていることから、
Convex型の賃金関数をもとに議論を進める。
Convex型の賃金関数なので、教師は優秀な生徒に高い点数を取ってもらおうとするため、
Trackingがないと、教師は指導水準を高く設定し、優秀でない生徒たちは取り残されることになる。
しかし、Trackingを行ってクラスを二つに分けると、
下のクラス(最低〜Medianまで)ではMedianの学力の生徒に合わせた指導水準を設定することになり、
Trackingがない場合に比べて、誰にとってもより望ましい指導水準になるようになる。
一方、上のクラスでは、教師の指導水準はさらに高くなるので、
Medianより少し上の生徒にとっては、水準が高すぎるが、
上のクラスではテストスコアもより高くなる結果、
教師の努力水準も上昇するので、
Medianより少し上の生徒にとっても、Trackingがないケースより望ましくなる可能性がある。


そして、以上の理論的予測を前提としたうえで、
実際に実験した結果がどうなっているかということを、回帰分析で調べている。
理論的予測から、
たとえば、上のクラスの生徒については、
指導水準が上がるので優秀な生徒にとっては便益が大きいが、
Medianより少し上の生徒はそれほど便益が大きくない可能性もあるので、
効果は能力に対して非線形である可能性がある。
それを考慮して、当初のテストスコアの4分位のダミーを作って、
それとTrackingとの交差項を入れたり、
テストスコアと当初のテストスコアのNonparametric分析を行ったりしている。


で、分析結果としては、
Trackingはどの生徒にとっても望ましいことが明らかになり、
とくに上のクラスの生徒にとって効果が大きかく、
下のクラスの生徒のテストスコアも、それよりは小さいが、上昇した。
そして、Trackingの効果は、実験から1年たった後のテストスコアにも表れており、Persistencyがあることが確認された。


また、
Peer effectを見るために、
当初のテストスコアがMedianよりわずかに下の生徒(下のクラスに配属)と、わずかに上の生徒(上のクラスに配属)を比べてみても、
両者の間にTrackingの効果に関して大きな差はなく、
Peer effectはほとんどなく、Trackingをする際にPeer effectを心配する必要はないことが示された。


また、教師の行動にも言及していて、
常勤の教師は、上のクラスでより努力をする(欠勤しないようになる)ようになったが、
下のクラスでは努力水準に変化は見られなかった。
ただ、下のクラスでは、指導水準を落としていることが確認され、
指導水準がより適正になったことにより、下のクラスの成績が伸びたことが推測される。
Contract teacherに関しては、Trackingのあるなしにかかわらず、努力をしていた。


結論として、
どのレベルの生徒もTrackingによって恩恵を受けており、
理論モデルと実証結果は、

  • 生徒間の異質性が大きく
  • 教師には優秀な生徒に指導水準を合わせるインセンティブがあり(賃金関数が生徒の得点に関してCovex)
  • 異なる能力のグループの生徒に対して十分に対応できない場合には、

Trackingが有力な教育改善の手段になりうることを示している。


というような論文だった。
聞き終えて、とくに論文をこれ以上SubstantialにImproveするようなコメントは思いつかなかった。
ただ、よくManageして分析したとは思うが、
自分がこのアイディアがあったとして実際に研究しようと思うかというと、
あまりそうは思わない。
自分が実際に研究しようとは思わないアイディアが、
実際には研究されてトップジャーナルに載る、ということを見ると、
セールスの仕方というか、論文の売り方、これまでの研究や議論との関連付けの仕方の能力が、
まだ足りないということなのだろう。
Saving constraintの話も、
それをフィールド実験でやるという話は同僚として、でもそんなのやってもね、という結論になったが、
Dupasたちの研究は結構なインパクトがあるみたいだし、
そこらへんの能力をもっと磨いていかないといけない。