Microfinance Innovation and Impact Conference: その1

10/21-22に開かれたMicrofinance Innovation and Impact Conferenceに参加。
備忘録代わりのメモ。


1日目

  • Dean Karlan (Yale University)

フィリピンで、Credit scoringをして点数が高くもなく低くもない人たちに対して
Randomに融資認可をした、おなじみのRCTの結果の紹介。
融資の効果としては、
・他からの借入も増大、
・ビジネスは拡張せずむしろ雇用者数を減らして縮小(可能性としては、借入が容易になったので「雇い合い」によるリスクシェアをしなくてもよくなり、余剰労働を解雇できるようになった)、
・事業利益は、男性は上昇したが、女性は上昇しなかった、
など。

  • Abhijit Banerjee (MIT)

インドのハイデラバードのスラムでの、これまたおなじみのRCTの結果の紹介。
融資の効果としては、
・新規事業の増大(1.6%)
・事業利益:一応+だが有意ではない
・支出:一応+だが有意ではない
・耐久財支出:増大
・誘惑財、祭り支出:減少
・健康支出、教育、女性のエンパワーメントに関しては効果なし
・ビジネスをすでに持っていた家計、および新規ビジネスを始める確率の高い家計は、誘惑財や非耐久財への支出を減らして投資を増やしているが、そうじゃない家計は、むしろ誘惑財や非耐久財への支出を増やしている
など。

  • Esther Duflo (MIT)

ロッコのAl Amanaというマイクロクレジット機関と共同で行ったRCT。
農村地域で、かつ他のマイクロクレジット機関がいない、という点が上の二つと違うところ。
やり方は、インドのハイデラバードのと同じで、ControlとTreatmentの村が、それぞれ81。
家計のサンプル数は5670。
借りる確率の高そうな家計を中心にサンプリングしていたにもかかわらず、
2年間でのマイクロクレジットの利用率は16%と少ない。
保険のUptake率はもっと低いけれど、マイクロクレジットも結構Uptake率は低いみたいだ。
融資の効果(2年後)としては、
・Informal loanの減少
・健康支出の上昇
・社会的支出(祭りとか)の減少
・消費水準は変化なし
・新規事業の開始確率にも影響なし
・家畜の多様化が進んだ
・利潤は上昇
・雇用者数も上昇
・家畜の形での貯蓄も上昇
・農業所得も上昇
・家畜所得は変化なし
・資産売却は減少
・自営業収入は上昇
・被雇用収入は減少
・教育、児童労働、女性のエンパワーメントには影響なし
・負のショックを吸収する役割はどうも果たしていない模様
・貯蓄は上昇、支出は減少(主に前から事業を持っていた人たちに対して)


総じて、マイクロクレジットは何らかの効果があるようだが、
人々の生活水準を劇的に改善できるわけではなく、
女性よりはむしろ男性に対して利益上昇の効果があるようで、
融資を受けて人々がそれをどう使ったか(事業を持っていたり事業を始めそうな人は事業に投資するが、そうじゃない人は消費財や誘惑財に使ってしまう)にかなり依存する、
というところ。


これ以降のセッションについては、また後で。


これまで厳密に評価されてこなかったプログラムをRCTで評価してみました、
というのは、あまり研究としては魅力的に思えないけれど、
実務家からは結構関心を持ってもらえるし、とりあえず深い知識がなくても始められるので、
もっと深く研究していくためのファーストステップとしては、
入りやすいテーマなのだと思う(プログラム評価だけだったら、経済学もあまり活用できていないし)。


個人的には最近の興味は理論モデルやモデル推定に移りつつあって、
RCTばかりやってると馬鹿になると思うくらいだが、
RCTの魅力は、やはり、それまで実際に行われてこなかったアイディアを実践できることだと思う。
通常は論文でPolicy implicationと書く部分を実際に行えて、
そこからさらに学べるので、良い体験学習の場になる。
とはいえ、その体験学習は実際の人々を被験者にしているので、
しっかりと責任感を持って研究しないといけないけれど。
それ以上深く掘り下げようとせず、単に一度RCTだけやっておしまい、
というのは、研究者として非常に無責任な気がする。
と書いて、自分にも思い当たる節があったので(南アフリカHIVプロジェクトとか)、
データを集めて分析したらもっと掘り下げてみようと、プチ決心。