HIV検査のunintended consequence?

unintended consequenceと言えば、
このBerkeleyの学生のJMPも興味深い。
HIV Testing & Risky Sexual Behavior
http://ecnr.berkeley.edu/vfs/PPs/Gong-EriJ/web/jmp.pdf

HIV拡大を防ぐ為に最近ではHIV検査が推進されており、
数年前の記事などでは、
これまでHIV拡大を防げなかったのはHIV検査というMissing weaponに焦点が当てられていなかったからだ、
という論調もあった。
それに対してThornton (AER, 2008)のフィールド実験論文では、
HIV検査で陽性と分かった人はコンドームを(たった)2個余分に買うが
陰性とわかった人はコンドーム購買行動に関して変化はなく、
HIV検査が人々の行動に与える影響は少ない、
ということが示された。

それに対してこの論文は、
ケニアタンザニアで1995年-1998年に実施されたRCTのデータを用いて、
HIV感染の原因になるUnprotected sexの代理変数として、性病罹患確率を使って、
HIV検査とUnprotected sexの関係を実証している。

その結果、
HIV陽性確率が高いと思っていた人が検査で陰性だとわかると性病罹患確率が73%減ったが、
一方で、
陽性確率が低いと思っていた人が検査で陽性と分かると性病罹患確率が5倍以上も増えたことが分かった。
このことは、陽性確率が低いと思っていた人が検査で陽性と分かると
コンドームなどを使わなくなったり不特定多数の人間と性交渉する確率が高まり、
他の人をHIV感染させて全体のHIV感染率が上昇してしまう可能性があることを意味する。
そして、この推定結果に基づいて疫学モデルを使ってシミュレーションしてみると、
HIV検査により全体のHIV感染率は25%上昇してしまうという結果が出た。

シミュレーションの段階では、陽性と分かってsexの相手を陽性の人にシフトする可能性などは排除されてるので、
シミュレーション結果をどこまで信じるかには解釈が分かれうるものの、
HIV検査をすることでHIV感染率が増えてしまう可能性があるという指摘は非常に重要だし、
HIV検査をして陽性になった人へのアフターケアを徹底させる必要があるというPolicy implicationも導かれる、
大事な研究だと思う。


Harvardに来てからImbensやPakesの授業をとったりして計量のテクニックを磨くことに重点を置いてるけど、
開発経済学というApplied fieldの性質上、
本当に大事なのは計量のテクニックそのものじゃなく、
こういう、人々があまり注意を払っていなかったけど実はとても大事なイシューを見出して、
それをきちっとしたEvidenceとして提出すること。
計量のテクニックというものは、
Evidenceを提出する際のマナーみたいなもので、
推計結果を出すうえで最低限身につけておかないといけないけど、
それだけで開発経済学の先端を切り開ける研究ができるわけじゃない。
とはいっても、学会とかに行ってもそのマナーができてない研究が多いし、
計量の人たちの前ではまだ自分もそのマナーができていないに等しいので、
やはりもっとテクニックを身につけることは必要なのだけれど。
とりあえず授業期間中はテクニックを磨くことに専念し、
夏休みになったら論文生産(「量産」となったらいいんだけどな)体制に入ろう。