ルワンダ虐殺とラジオ放送のプロパガンダ

今日はAfrica Research Seminarに参加。
Kennedy SchoolのYanagizawa-Drottが以下の論文を報告。
Propaganda and Conflict: Theory and Evidence From the Rwandan Genocide
http://www.hks.harvard.edu/fs/dyanagi/Research/RwandaDYD.pdf


1994年にルワンダで、
多数派のフツ族による少数派ツチ族の大量虐殺が起こった。
100日の間に、およそ75%のツチ族が殺されたとされている。
(より詳しいルワンダ虐殺の説明はこちら↓
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AB%E3%83%AF%E3%83%B3%E3%83%80%E8%99%90%E6%AE%BA )


この大量虐殺の際に、フツ族過激派によるRadio RTLMの放送で、
"kill, or be killed"
のようなメッセージを流して、それが大量虐殺を助長した、
とされている。
(映画「ホテル・ルワンダ」でも、ラジオ放送で、ツチ族を殺せ、というメッセージが流れて虐殺をあおる場面がある)
この論文は、そのラジオ放送のCausal effectを推定しようとした論文。


Violenceの利得にUncertaintyがあり、
Violenceの利得は他の人々の行動に依存し、
ラジオのPropagandaがPublic informationであるような状況のGlobal gameを考えて、
ラジオ放送が大量虐殺を引き起こす可能性を理論的に示したうえで、
地域ごとのラジオ放送のCoverageと、虐殺への参加の関係を調べている。


虐殺への参加は、虐殺後の裁判の訴訟データから、一人当たり訴訟割合を使用(平均8.4%)。
ラジオ放送のCoverageは、誤差項と相関するOmitted variableの可能性があるので、
ラジオ基地局までの距離と村レベルのFixed effectをコントロールしてOmitted variableをコントロールしたうえで、
山の基地局側では電波が来るが反対側では電波が来ないなど、地形によって生じるラジオのCoverageの予測値を用いて、
同じ村でラジオが届く地域と届かない地域の違いを利用して推計している。
これは、インドネシアでテレビがSocial capitalに与えた影響を推計したOlken (2009)と同じアイディア。
GISソフトArcGISの、ITM/Longley-rice modelというのを使ったらしい。


結果としては、
・ラジオのCoverageが高いほど、虐殺への参加が高くなる。
ツチ族の数が多い地域では、ラジオの影響はない(ツチ族の数が多いと虐殺しても仕返しされたりして利得が負になる可能性が高いので、Propagandaが流れても行動に影響を与えない)
・ラジオのCoverageの影響はNon-linearで、Coverageが十分高くないと虐殺への参加に影響を与えない(Public signalが閾値を超えないと行動に影響を与えないというGlobal game下のcoordinationの可能性を示唆)
識字率や教育水準が高い地域ではラジオの影響は少ない(他の情報源がある人はPropagandaに左右されにくい)
など。
そして、これらの推計結果を用いて、
ラジオのPropagandaによって、虐殺全体の9.3%、4万5000人程度の殺害が説明される、
とのこと。


CoverageがNon-linearで、Coverageが十分高くないと虐殺への参加に影響を与えない、というのは、
Coverageが十分高い地域は特定の地域(過激派が設置した基地局のそば)に集中している可能性があるので
解釈には留保が必要だし、
理論的枠組みとしては囚人のジレンマを使ったりと他のモデルを使った方がいいかもしれない可能性もあるものの、
トピック的に非常に面白い論文だった。
内戦、紛争は、人々の生活に与える影響が非常に大きい割には、
データの制約などからこれまで研究の蓄積が少なかった分野なので、
Identificationの問題をクリアした実証論文は、まだまだ希少価値が非常に高そうだ。


教育の高い地域ほどプロパガンダの影響を受けなかったというのは、
Conflictが深刻化しないようになるために教育が重要ということを示唆しているかもしれない。