Overidentification test

"Corporate Social Responsibility and Access to Finance"
http://hbswk.hbs.edu/item/6766.html
ハーバードビジネススクールのAssistant Professorのペーパーで
CSR活動が資本調達コストを下げるという実証論文。
ただ、予想どおり、実証にはいい加減さが残る。
そんなに読んだわけではないが、
CSRやBOPの実証研究では、ほとんどが実証方法に疑問を感じることが多い。


この論文では(ぱっと実証方法のページを眺めた程度だが)、
CSRを行っている企業の多くは優良企業であり、そういった企業は資本調達コストがそもそも低い、
などといった点を考慮するために操作変数法を使っており、
操作変数が内生変数といかに相関しうるかについては強調しているが、
操作変数法のもう一つの仮定であるExclusion restrictionに関する言及はほとんどなく、
Overidentification testをやって棄却されないからよし、とするのみ。


この論文に限らず、操作変数法を使った多くの論文で、
Overidentification testをやって操作変数の妥当性を示そうとするものが多い。
しかし、そもそも、IVと誤差項のありうる相関が似たようなものなら、
overidentification testなんてやっても意味がないのだ。


たとえば、
内生変数一つ、IVが二つでz1,z2とすると、
overidentification testは、z1のみ、z2のみとの推計結果と比べたりする手続きだが、
この手続きが妥当性を持つためには、
少なくとも片方がexclusion restrictionを満たしてることが仮定されている。
たとえば、E[e|x,z1]=E[e|x,z2]>0であるならば、当然exclusion restrictionは満たされてないが、
z1を使ってもz2を使っても推計結果に大差はないはずなので、
overidentification testをしても帰無仮説は棄却されなくなってしまう。
なので、似たようなIVを使ってOveridentification testをしても、
操作変数の妥当性を示したことにはならない。


上記の論文を知ったのはCSRwireメールで流れてきたからだが
こうしたメールを読んで、
「最新のハーバード大の研究によればCSR活動が資本調達コストを下げることが立証された」
と受け取って、
資本調達コストを下げるんだからCSRは企業の利潤追求の目的とも矛盾しない、
と主張してCSR活動を進めようとする人たちも結構多いんじゃないかと思う。
注目を集めそうな研究であればあるほど、
きちっとした手続きを踏んだ分析をする責任が問われる。


操作変数のあまり注目されてない問題は他にもあって、
例えば、
内生変数y2の影響がNonlinearでf(y2)であるなら、
linearでb*y_2で近似した場合に
「f(y2)-b*y_2」の部分は誤差項に入ることになるが、
IVの定義上、IVはy_2と相関しているので、
結局IVが誤差項と相関してIVの仮定を満たさなくなってしまう。
IVは結構関数形の仮定にも強く依存してる方法だということは、
もっと広く共有されているべきだと思う。