How Large are the Gains from Economic Integration? Theory and Evidence from U.S. Agriculture, 1880-2002

今日はMITのDave Donaldsonのセミナーに出席(そのほかにもComputational Economicsの授業やらIOの授業やら開発の授業やら)。

"How Large are the Gains from Economic Integration? Theory and Evidence from U.S. Agriculture, 1880-2002"


政策効果の推定手法としては、

  • reduced form
  • structural
  • sufficient statistic

の三つがあるけれど、
structuralやsufficient statisticでは、
関数形の形に結構依存してくる。
この論文のテーマにもなっている経済統合(輸送コスト低下)などの効果を扱うには、
Counterfactual productivityをどう計算するかが問題になって、
関数形をどう特定するかがstructuralやsufficient statisticの一つのイシューになっているけれど、
この論文では、
農業については土壌や気候によってその土地における様々な農作物の生産性に関する知識が何十年にわたり形成されていて、
FAOの、アメリカの各地の各作物の生産性データベースを使って、
Counterfactual productivityを関数形の仮定によらず直接導き出したのが新しい点。
トウモロコシを作らずに小麦を作ったら生産高はどれくらい、
という情報がそのままあるので、
それをそのままCounterfactualとしましょう、というアイディア。
すでに確立された知識を使ってパラメータの値を特定する、という点では、
カリブレーションと類型化されても文句は言えない気もするけれど。


ある地域の土壌は均一ではなく、トウモロコシ生産に適した土壌もあれば他の作物の生産に適した土壌もあり、生産性の水準にも違いがあるので、
ある地域の各作物の生産性データから、その地域での生産性フロンティアが描ける。
農作物の場合は、
市場価格と農家のgate priceは異なるので、
生産地の生産高のデータから、生産性フロンティアのどの点で生産しているかを特定し、
その点における生産性フロンティアの傾きからgate priceを導き出している(そのためprice takerを仮定)。
そして、そのgate priceと各地の市場価格とを比べることで、
輸送コストが導き出される。

そして、仮に1880年における輸送コストが2002年と同じだった場合に、
どの程度の経済的利益があったかを調べることによって、
経済統合(輸送コストの低下)がもたらした経済的便益を測定している。
まだPreliminaryな結果なので今後変わっていく可能性は大いにあるが、
現在のところの推定値は、1880年〜2002年における経済統合による農業生産の上昇は98%(当該期間における農業生産の上昇は300%程度)、
ということだそうだ。


以下、Abstract。
In this paper we develop a new approach to measuring the gains from economic integration based on a Roy-like assignment model in which heterogeneous factors of production are allocated to multiple sectors in multiple local markets. We implement this approach using data on crop markets in 1,500 U.S. counties from 1880 to 2002. Central to our empirical analysis is the use of a novel agronomic data source on predicted output by crop for small spatial units. Crucially, this dataset contains information about the productivity of all units for all crops, not just those that are actually being grown. Using this new approach we estimate: (i) the spatial distribution of price wedges across U.S. counties from 1880 to 2002; (ii) the gains associated with changes in the level of these wedges over time; and (iii) the further gains that could obtain if all wedges were removed and gains from market integration were fully realized.


すでに他の分野で確立された情報を使ってCounterfactualを構成する、
というアイディアは、
今後どんどん増えていくかもしれない。
Fully structuralじゃなくても、
誘導系をモデルと組み合わせてもうちょっと発展させて社会全体の経済的利益について言及したりとか、
そういう推計とモデルをうまく組み合わせた論文が、これから増えていくような気がする。
誘導系で実証して単純にxはyに影響を与えている、だけで終わってしまったら、
データや社会構造に含まれる情報を最大限生かしきれない場合が多いし、
ちょっとモデルなりを加えるだけで生きてくる情報って、結構あると思う。