Bounds on Elasticities With Optimization Frictions

今日のReading GroupではChettyのこの論文を報告した。

Chetty, R. (2012). Bounds on Elasticities With Optimization Frictions: A Synthesis of Micro and Macro Evidence on Labor Supply. Econometrica, 80(3), 969-1018. doi:10.3982/ECTA9043


労働供給のElasticityの推計では、
税率などの変化により、
働いている人がどれくらい労働時間を変化させるかというIntensive marginの情報から得られたElasticityの推計値と、
それまで働いていなかった人が働くようになるというExtensive marginの情報から得られたElasticityの推計値が、
かなり異なっているというPuzzleがある。
特に、Intensive marginで見た場合には、Elasticityがゼロに近く、税率の変化が労働供給にほとんど影響を与えないという研究結果も多い。
また、Intensive marginから推計したElasticityは、研究によってばらつきが非常に大きい。


このChettyの論文は、
最適な行動をとったときの効用と大きく差がない程度(たとえば1%程度)の効用は達成しているが、
調整コスト、サーチコスト、認知、再計算の手間などの様々なFrictionの存在により、
人々が常に最適化を行っているわけではないことを許容したうえで、
ElasticityのBoundを導き出している。
Intensive marginの場合は、税率が変化しても、労働時間をそれに応じて数%変化させたところでリターンはそれほど大きくないので、Frictionがある場合には、結局労働時間は変化しない、つまりElasticityがゼロ、という状況も出てきてしまうが、
Extensive marginの場合は、それまで働いていなかった人が働くようになるのでリターンも大きく、Frictionがあっても働きに行くようになる人がSubstantialに増えるので、
FrictionがあってもElasticityの推計は結構正確に行うことができる。
つまり、Frictionを考えることで、Intensive marginの情報から推計したElasticityはExtensive marginの情報から推定したElasticityより小さくなりやすいというPuzzleが説明でき、
さらに、Intensive marginから推計したElasticityのBoundはExtensive marginのそれより広いので、Intensive marginから推計した
Elasticityが、研究によってばらつきが非常に大きいということも説明できる。

そして、その上で、
既存研究で求めたElasticityと、既存研究でElasticityを求めているのに使っている税率の変化率、そして1%のFrictionを想定することで、
Intensive marginから求めたElasticityのBoundと、Extensive marginから求めたElasticityのBoundが矛盾しないことを示している。


Optimization frictionというものを導入するだけで、
既存研究のPuzzleが解明できることを示した非常に良いペーパー。
さらに、
モデルを解析的に解いていって、構造パラメータを推定するのに必要最小限の情報を明らかにし、
過度にComputationに頼らないのも、
多くの構造推定モデルはOveridentifiedだとして、Just identifiedなSufficient static approachをとろうとするChettyの哲学が現れていて感心する。
なかなかに読み応えのある論文だった。


あと、セミナーを聞いただけだけど、
Oster達のAER近刊のこの論文も、
Optimal Expectationsのモデル(Brunnermeier&Parker, AER 2005)を持ち出してきていて興味深い。
理論論文も定期的にフォローしていかなきゃ、と思わせる論文。

"Optimal Expectations and Limited Medical Testing: Evidence from Huntington Disease"
http://faculty.chicagobooth.edu/emily.oster/papers/hdbeliefs.pdf
ハンチントン病リスクがあるが検査を受けない人は、リスクを楽観視し、婚姻、出産、貯蓄等に関しても病気にならないかのような行動を取ってる。
敢えて真実を知らないことで楽観的予測を形成してAnticipated utilityを高めている、というのが、信念を選べるがその信念と整合的な行動をする必要がある、というOptimal Expectationsのモデルと整合的と議論。