Selling to Overconfident Consumers (AER, forthcoming)

火曜日恒例のReading Groupで、

Michael Grubb, "Selling to Overconfident Consumers," AER, forthcoming

を報告。


携帯電話料金などでよく見られる、
・月額料金(Fixed fee)
・月額料金に含まれる無料通話分(Allowance of units for which marginal price is zero)
無料通話分以上の通話料(Positive marginal price for additional usage beyond the allowance)
というThree-part tariffは、
既存理論ではうまく説明されてこなかったが、
行動経済学エビデンスが蓄積されつつあるOverconfidenceをモデルに入れると、
最適契約で、Three-part tariff(の近似)を導出できる、
というもの。


1980〜90年代は、
ゲーム理論を用いて、
慣習や制度といった非経済的なものがどれだけ合理性で説明できるか、
途上国でよく見られる分益小作制や頼母子講、相互扶助などの伝統的な制度がどれだけ合理性で説明できるか、
についての研究が盛んに進められたが、
最近では、
行動経済学で蓄積されたエビデンスをもとに、
Hyperbolic discountingやProspect theoryなどを取り入れることによって、
これまで説明できなかった現象をいかに説明していくかが、
一つの大きな研究の流れになっている(ように感じている)。


で、この論文もその大きな流れの中の一つで、
既存理論ではうまく説明できなかったTree-part tariffが、
Overconfidenceを取り入れると、
もっともらしい説明ができるようになるというもの。


ここで、Overconfidenceとは、
自分の予想の正確性について過信すること。
たとえば、
自分はだいたい、ひと月1時間くらい通話するだろうと予想していて、
20分くらいしか通話しないとか、
2時間くらい通話してしまうとかの確率を
過小評価してしまうこと。
平均値としては正しい予想をしていたとしても、
20分とか2時間とか、平均値から離れた値の確率については過小評価してしまうのが、
Overconfidence。


この論文のメインの結果は、
こういうOverconfidenceがあり、Marginal costが低い場合には、
最適契約(の近似)として、Three-part tariffが導けるということ。


ロジックとしては、
Overconfidentな消費者は、
通話時間が短い確率を過小評価するので、
企業としては、
一定水準まで無料の料金体系を提示することで、
通話時間が少ないケースはほとんど想定していない消費者に対して、
これだけ無料通話分が含まれているならこのプランはお得だなと思って買わせることができつつ、
思い込みに反して実際に少ない通話時間に終わった場合に、企業は未使用分の利益をそのまま得ることができるようになる。
つまり、
通話時間が短い確率への過小評価が、企業に定額制契約をオファーさせるインセンティブを与えている。


また、
Overconfidentな消費者は、
通話時間が長い確率も過小評価しているので、
企業としては、無料通話分以上は高い価格を設定しておいて、
つい多く使ってしまった人たちから高い通話料を取る、
という契約設定にしようとする。


このように、
自分の予想に関するOverconfidence、
つまり、
予想以下の値については、そんな小さいことはありえないと思うので、
実際よりもOverestimateしてしまい、
予想以上の値については、そんな大きいことはありえないと思うので、
実際よりもUnderestimateしてしまう、
という、ある水準以下ではOverestimate、それ以上ではUnderestimateという性質が、
Three-part tariffの要因になっている。
そして、
消費者による通話時間の過大評価、あるいは過小評価のどちらか一方だけでは、
Three-part tariffは説明できないことも示しており、
また、Overconfidenceを仮定しない、Multi-typeを取り入れたPrice discriminationのモデルでも、
一応Three-part tariffに似た形の最適契約は導けるが、
それにはちょっと特異なTypeの分布の仮定が必要であり、
現実のデータを見てみても、それはサポートされないことも示して、
Overconfidenceこそが、Three-part tariffを説明するものだというのを説得的に示している。


そして、Overconfidenceの裏付けとして、
携帯電話の請求金額のデータを使って、
Three-part tariffを選んだ消費者の多くが、
過少利用や過大利用によって、
別のプランを選んだ場合よりも損をしていることを示し、
予想していたより使わなかったり過大に使ってしまっているという、Overconfidenceが実際に存在していることを示している。


OverconfidenceとThree-part tariffをつなげてしまう発想力と、
それを抽象的なモデルでうまく解いてしまえる解析力と、
解析的な結果だけでははっきりいってちょっとわかりづらいので、わかりやすい数値例と図を使って説得的に示す例示力とが、
すばらしい。
まあ、モデルの展開はかなり省略されているし、定理などの証明は、AppendixだけでなくWeb Appendixにまで及んで、非常に読みづらい論文ではあるのだけれど。