When the Levee Breaks: Land, Labor, and Capital in the Deep South

経済史のセミナーに参加。
去年HarvardのAssistant Professorになった、Richard Hornbeckの発表。


When the Levee Breaks: Land, Labor, and Capital in the Deep South
というタイトルで、
1927年のミシシッピ川の洪水により、
とくに黒人を中心とした労働人口が他地域への移住により減り、
生産活動もダメージを受けたが土地の生産性にはほとんど影響がなかった、
という事例を研究することで、
1. 実際に黒人労働力が流出したか?
2. 労働力不足により、農業の機械化が進んだか?
3. 農業生産が近代化したか?
4. 以上の影響により、洪水にあった地域の方が、その後より発展したか?
について明らかにしようというもの。


その背景には、
1. labor availabilityが技術選択に影響を与える
2. labor availabilityが技術変化の方向を決める
3. 古い資本が破壊されることで、新しい資本財へのブームが起きる
4. 機械化によりPoverty trapを脱し、長期成長へつながる
という理論的な可能性がある。


それで、ミシシッピ川流域のCountyのそれぞれについて、1927年の洪水で被害を受けた地域の割合を計算し、
County levelのセンサスデータと結合して、
State-by-year fixed effectを入れて分析を行っている。


結果としては、洪水の被害にあった地域の割合が多いCountyほど、そうじゃないCountyに比べて、
1. 黒人労働人口の減少
2. 農業資本の増加
3. 農場の増加
4. 農場規模の増加
5. Cash cropの生産の増加
が見られ、土地の価値については明確な傾向が見られなかった、
というもの。
洪水の被害にあった地域ほど農業資本が増加したので、
洪水によって農業の機械化と近代化が促進されたようだ、と結論付けている。
一方、地域の経済水準を反映する指標である土地の価格については明確な傾向が見られなかったので、
長期成長に対して明らかな影響はなかった、としている。


洪水によって農業の機械化が促進されたのは、
洪水被害によって農地を売却した家計が出てきて農地の集約化が進んだ結果、機械化することのベネフィットが増えたんじゃないか、
というFarm size effectが考えられそうだ、と思っていたが、
後でグラフで、農場規模が大きくなったのは1950年ごろで、
順番としては、機械化→農場規模、ということが示されていて、
Farm size effectではなさそうなことが明らかにされていた。


セミナーでは、
Ariel Pakesがいろいろと質問をしていて、
洪水が起きた地域への資金的援助、政策的援助が効果を与えた可能性は?
とか、
大恐慌の影響は?
とか、
この洪水の設定では、
1. labor availabilityが技術選択に影響を与える
2. labor availabilityが技術変化の方向を決める
3. 古い資本が破壊されることで、新しい資本財へのブームが起きる
のどれが重要なのか分からないじゃないか、
とか突っ込んでいた。


Labor scarcityの何か良いIVがあれば、少なくともLabor availabilityか古い資本の破壊かが明らかにされるんだろうけど、
たとえば機械化に対するLabor scarcityの影響を見ようとしたときに、
洪水は、古い資本破壊によるあたらな資本財へのニーズを作りだすので、Error termと相関してしまいそうだし、
System GMMだと、洪水というNatural Experimentを使うという特色が薄れてしまうしで、
なかなか良さそうなIVが見つからない。
洪水による被害総額が400 million $というのが報告されていたので、
County levelでの被害総額でも分かれば古い資本破壊がある程度コントロールできそうに思うのだけど、
それは多分なさそうだよなあ。。。
やはり、賃金のデータをどうにかこうにかとってきて、
洪水を賃金のIVに使って、賃金上昇が機械化に影響を与えたかどうかを調べるのが、ありうる方向性だろう。


ところで、
Esther Dufloが、John Bates Clark Medalを受賞したらしい。
http://www.vanderbilt.edu/AEA/honors_awards/clark_medal.htm

Esther Duflo has distinguished herself through definitive contributions to the field of Development Economics. Through her research, mentoring of young scholars, and role in helping to direct the Abdul Latif Jameel Poverty Action Lab at MIT, she has played a major role in setting a new agenda for the field of Development Economics, one that focuses on microeconomic issues and relies heavily on large-scale field experiments. Much of her work addresses questions of politics, gender, and education. She has written extensively on India, but has also studied Indonesia, Cote d'Ivoire, South Africa, and Kenya. This bio summarizes some of the highlights of her research.
だそうです。
http://www.vanderbilt.edu/AEA/PDF_files/Duflo_Bio_2010.pdf




なんか、あまり「おめでとう」という気になれないのは、なぜ???