女性の高学歴化の原因とその影響

昨日はBeckerの講演を聞きに行った。


ここ数十年、女性の進学率の上昇は男性のそれを上回っているが、
アメリカでは近年、女性の大学進学率は男性の大学進学率を上回っており、
他の先進国でもこうした傾向が見られつつある。
それで、これがなぜか、どういうImplicationを持つのか、という話。


アイディアとしては、
ここ二十年程度の傾向として教育、特に大学などの高等教育のリターンは上がっており、
女性の方が教育のリターンに対する人的資本投資の弾力性が高いため、
女性の人的資本投資が男性を上回るようになった、というもの。


それを示すために、
収入や生存確率が人的資本に依存する二期間のSingle agentの問題を考えて、
First order conditionによって、教育投資の大きさが、
・人的資本が収入に与える影響
・人的資本が生存確率に与える影響
・人的資本が余暇選考に与える影響
などに分解して、
・女性の方が人的資本が生存確率に与える影響が大きい
・女性の方が能力のばらつきが小さくかつ平均的にも高いため、高等教育のリターンが上がると、その恩恵を受ける人々の割合が、(能力のばらつきが大きく平均的にも低い)男性に比べて大きい
ということが女性の大学進学率が急激に伸び、男性を追い越している、という現象を生み出している、という主張をし、
この2点を支持する既存研究が存在することにも触れている。


そして、
女性の高学歴化は、女性の収入増加を通じて少子化につながり、
少子化による社会保障負担の増大の影響、経済成長への影響、
というマクロの効果が無視できないものかもしれず、
これは重大な研究テーマだ、
ということで結んでいる。


二期間のSingle agentという非常にシンプルな枠組みから、
ここまで大きな話に持っていくか、
というストーリーの作り方は非常に参考になった。
個人的には、
女性はある程度の学歴までは、結婚したら主婦になったり出産で仕事を辞めてそのあとパートをしたりで、
出産後もバリバリ働くのはかなり高学歴の人になるから、
そういう家庭内意思決定の問題を含めると、
女性の教育のリターンの形状は、ある程度の学歴まではかなりFlatで、高学歴になってくると出産後もバリバリ働く確率が高まることもあって教育のリターンがSteepになってくる可能性があり、
このことが女性の高学歴化の原因になっているんじゃないかと思って
終了後にBeckerに質問してみたのだけど、
働く女性の割合が高い国(つまり労働供給に関する家庭内意思決定の問題があまり大きくない国)でも女性の大学進学率の方が高いんだ、だからやっぱり俺があげた二つのポイントが重要なんだ、
といって一蹴された。。。
モデルのFirst order conditionでも、人的資本が収入に与える影響は出てくるので、
そこの部分の形状が男性と女性でどう違うか、ということを調べられれば、
それで終わる話なんだけど。
というか、モデルにせっかくその部分が出てくるんだから、それにも触れてよさそうなんだけど。


First order conditionによって分解して、
実際に教育のリターンのデータ、女性の方が人的資本が生存確率に与える影響が大きいという既存研究、男女の能力のばらつきの分布などのデータもあるので、
それを使って、実際に女性の教育投資の伸びのうち、それらがどれくらいを説明するのか、というカリブレーションがあるかな、と思ったけど、
それはやはりBeckerのスタイルではないのでやってなかった。
Emily Osterならやりそうだけど(B型肝炎がMissing womenのどれくらいを説明しているかというカリブレーションをしてるくらいなので)。