Which Diseases Generate the Largest Epidemiological Externalities?

DevelopmentのLunchセミナーに参加。
Michael Kremerと、
DartmouthのProfessorでIOが専門のChristopher Snyderと、
今年Harvardを卒業して、来年からMITのAssistant ProfessorになるHeidi Williamsの共著論文の
"Which Diseases Generate the Largest Epidemiological Externalities?"


Heidiがプレゼン予定だったのだけど、Kremerが発表してた。
理論パートは、おもにChristopher Snyderが手を動かしている模様。


感染病の場合には、自分がワクチンを接種すると、
自分が感染しないだけでなく、自分を通して周りの人が感染しない、
という外部性もあり、
それが国家によるワクチン接種への介入を正当化している。
この論文は、どのような感染症の場合に、どの程度の国家介入が必要か、
という問いに対し、
疫学モデルと経済モデルを統合したモデルを作って理論的な回答を与えている。


一般的な疫学モデルでは、
病気の感染力が高くなるほど感染人口も増える、
という一見当たり前の結論が得られる。
しかし、
そこに経済学を組み込んで、
消費者のワクチン接種の選択と、企業の価格付け(独占企業を想定した場合)を入れると、
ちょっと違った結論が得られてくる。


まず、
・病気の感染力が高くなるほど感染人口も増える
という疫学モデルの結論は必ずしも正しくなく、
あるパラメータの範囲では、
・完全競争下では、感染力がある程度高くなると、それ以降は感染力が高くなるに従って感染人口は「減り」、ある点を超えると、再び、感染力が高くなるほど感染人口が増えるという関係が出てくる。

なぜこのようなことが起きるかというと、
感染力が低い場合には、
人々はわざわざワクチンを接種せず、
感染力が高くなってくると、ワクチンを接種する人が多くなってむしろ感染人口が減り、
もっと感染力が高くなって全員がワクチンを接種するようになる点を超えると、
それからは感染人口が再び増え始める、
という構造があるからである。

一方、独占企業の場合には、
価格を高めに設定し、かつ、感染力が強くなるほど消費者のワクチン需要も高まるのでワクチン価格も上がるようになる。
これらの効果を考慮して感染力と感染人口の関係をみると、
感染力が中間くらいのところで感染人口が最大になり、
それ以降は、人々のワクチン消費の効果の方が大きくなって、感染人口は緩やかではあるが低下していく。

ワクチンの私的便益と社会便益が最も大きくなるのは、
ワクチンがないとゆるやかに感染が広がるほどに感染力が強いが、
それほどまでに感染力が強くないので人々はあえてワクチンを打たないことを選ぶような程度の感染力の病気であり、
また、First bestを達成するのに必要な政府の介入額が最も大きくなるのは、
感染力が高くて多くの人々がワクチンを受けるような病気ではなく、
感染力がそこそこで、ワクチンを受ける人の割合がそれほど多くないような病気ということになる。


一般的な疫学モデルに、
消費者の行動と産業構造を取り入れた経済学モデルを取り込むと、
疫学モデルでは得られなかった、
しかし現実にありえそうな結果が出てきて、
非常に面白い論文だと思う。
ただ、政府の介入について考えるところでは、
政府は事後的に介入するとしているが、
独占企業の場合には、政府がPrincipalになってTake-it-or-leave-itの契約をオファーできるかもしれないし、
その場合にはここでは情報の非対称性を仮定していないので、
結構簡単にFirst bestを達成できそうな気がする。
また、政府がPrincipalになって契約を結べないケースを想定しても、
政府が価格補助などの介入をしてくることを予想して企業は価格付けするかもしれず、
政府の介入額に関する分析は、もうちょっと改善すべき余地がありそうな感じだ。


以下はAbstract。

How should governments weigh disease transmissibility and severity in allocating vaccine subsidies? When will their population benefit from fighting foreign infections? To address questions such as these, we integrate a standard susceptible-infected-removed (SIR) epidemiological model with an economic model of consumer and producer behavior, obtaining closed form solutions for steady-state vaccine prices and sales, disease prevalence, and welfare as a function of disease transmissibility, product characteristics (vaccine or drug, efficacy), and market structure (monopoly, Cournot competition, or perfect competition). Steady-state disease prevalence may be non-monotonic in underlying disease transmissibility, with a peak for intermediate values under monopoly and a trough under competition. Robustly across market structures, marginal externalities from vaccination are largest for diseases that are just transmissible enough that a single infected individual introduced into a susceptible population infects one additional person before dying (R0 = 1, in epidemiological terms). The minimum vaccine subsidy needed to achieve the first-best, as well as the loss in profits to pharmaceutical firms producing vaccines rather than drugs that do not interfere with transmission, both peak for intermediate values of disease transmissibility. Governments concerned only with domestic welfare will pay the most to eliminate a small foreign infection inflow if R0 = 1 domestically, and may prefer to preserve the inflow for more transmissible diseases.