NEUDC 2010

NEUDC 2010に参加。
興味のあったセッション(というのかPCのバッテリが残っててPCでメモを取ったセッション)についての、
備忘録代わりのメモ。


<Why do employers hire using referrals? Evidence from Bangladeshi Garment Factroies>

企業が人を雇用する際に、従業員からの紹介に頼ることが多いが、
従来の実証研究では、その理由として、有能な人を集めることができる、というものばかりだったので、
モラルハザードを軽減する役割としての紹介制度に焦点を当てた実証論文。
具体的には、
Limited liabilityのせいで十分なインセンティブ契約が書けない場合には、
紹介された従業員がちゃんと働かないと、紹介した従業員へのPunishをする、
という契約を通して、紹介された従業員をよりきちんと働かせることが可能になる、という、
紹介によってモラルハザードが軽減される、というもの。

紹介制度によるモラルハザードの軽減については、
中西先生の『スラムの経済学』にも触れられてあったし、
JDEに載せた自分の修論にもそれとなく触れた(ような気がする)ので、
全然新しくもなんともないアイディアなのだが、
モデルを作って、Testable implicationを導きだして、
それをデータによって検証する、という手続きを踏んだことがGood point。

モデルの予測としては、紹介された従業員がちゃんと働かないと紹介した従業員がPunishされる、という契約が書けて、その結果、
・紹介された従業員の平均的な能力は低い(能力が低くてもちゃんと働くようになるので能力が低くても雇用される)
・紹介した従業員は経験年数が長い(説明がなかったのでメカニズムはよく分からないけれど、おそらくは、離職率が低くその企業に長くとどまる人ほどPunishmentのインセ

ンティブがきくので、企業は離職率が低くその結果経験年数が長い従業員の紹介を利用することになるから、と推測)
・紹介された従業員と紹介した従業員の賃金には正の相関が生じる(紹介された従業員のPerformanceを紹介元の従業員の賃金にも反映させるため)
・紹介した従業員は離職率が低い
というパターンが観察されるはずだ、というもの。

そして、バングラディシュの縫製工場のデータを使って、このパターンが実際に見られるかを分析。
バングラディシュの縫製工場では紹介による雇用が31.9%をしめて、ほとんどがClose tieによるものなので、
紹介元の従業員は自分が紹介した従業員とSocial interactionがあって何らかのPunishmentが可能な状況になっている。
データからは、
・紹介された従業員の教育水準、経験年数は低い
・紹介元の従業員の経験年数は長い
・紹介元の従業員と紹介された従業員の賃金には正の相関がある
・紹介元の従業員の離職年数は長い
という、理論の予測通りの結果が導かれている。
賃金の相関には、能力が高い人が紹介されたから、というSelectionの可能性も考えられるが、
紹介された従業員の教育水準が低く、また、紹介された従業員の離職率はそれ以外の従業員の離職率と違いがないことから、
SelectionがメインのDriving forceではない、と正当化していた。

ただ、紹介されて雇用された従業員は、紹介がなければ雇用されていなかった可能性が高く、
紹介なしに雇用された従業員に比べて、
観察可能な教育水準、経験年数が低い、というのはありえる話で、
紹介されるのは似たような能力の個人だとすれば、紹介元の従業員と紹介された従業員の賃金も正の相関をもつことになる。
また、紹介された従業員のパフォーマンスを紹介元の従業員の賃金に反映させる、というのが本当に行われているのかも疑問。
昇進などには反映させることがあるかもしれないけれど、データで扱っているタイムスパンがどの程度か分からなかったので、
その妥当性は分からない
(本当は聞けばよかったのだが、こうして書いているうちに思いついたので、聞けなかった)。



Self control at Work>
労働契約の文脈でのSelf controlの問題を扱った論文。
Self controlのモデルからの理論的予測としては、
1.給料(生産性に連動)の支払い日が近づくほど努力水準が高くなって生産性が高くなる
2.Self controlの問題を抱えているSophisticatedな個人は、線形契約よりも、生産性がある水準を超えたら給料が大きく増えるターゲット型の非線形契約(かつ線形契約に

Weakly dominateされる契約)を好む
3.以上二つの結果は相関する(支払い日が近づくほど努力水準が高くなるような個人はSelf controlの問題を抱えているので、ターゲット型非線形契約を選ぶ傾向がある)
ということが得られるので、それを検証するために、
1.給料支払い曜日をランダムに設定
2.線形契約と非線形契約を提示
というフィールド実験を、データ入力会社の協力を得て実施。
調査に伴ってデータ入力の仕事は生じてくるので、それを実験対象にしてしまおう、というのは賢いアイディア。
結果としては、
・支払日が近づくほど努力水準が上昇(もしExponential discountingを想定するなら、100%の割引を想定しないと説明できない)
・35%の割合で、労働者はターゲット型非線形契約を選択
・支払日が近づくほど努力水準が大きく上昇した人は、ターゲット型非線形契約を選択する確率が高い
と、Self controlと整合的な結果が得られている。

給料の支払い日が近づくほど努力水準が高くなるのは面白い発見で、
これが本当なら、日払い契約によって努力水準が高まるのかも見てみたいところ。



<Elaciticity of labor supply in rural Malawi (Kwacha Gonna Do?)>
賃金をランダマイズして、労働の供給弾力性を測った実験。
計測された労働の弾力性は0.15-0.17と低めで、
男性と女性で違いはなかった。

Barmby and Dolton (2010)が、似たような実験をやっているらしい。
賃金のランダムオファーは、1年前にアフリカでやろうとしたけど、実現しなかった。
この論文はマラウイ農村だけど、
南アフリカとか、失業率がすごい高い都市近郊地域で、
なぜ失業率が高いのか(あるいはなぜ賃金が失業解消の調整を果たさないのか)、という問題設定で、
・Efficiency wage
・High reservation wage
などの仮説を検証したらおもしろいと思う(というか、それをやりたかった)。
失業率が高いなら、賃金が下がって、その低い賃金を利用してもっとPrivate sectorが育ってもよさそうなものなのだけど、
それが起きていないので、その理由を知りたい。