NEUDC2010で興味深かった論文

ちょっとNEUDC2010に関する簡単な報告書を書かなければいけなかったので、
そこからの引用。
NEUDC2010で興味深かった論文を一つだけ紹介。

<Financial constraints and occupational choice: evidence from rural mexico>
プログレッサのCash transferが起業確率に対する所得の効果を調べた論文。
子供の学年によってCash transferの額が異なることを利用して、
同じ年齢だけど違う学年の子供がいる家計を比較することで所得の影響をとらえようとしたもの。
子供の学年によって受け取る額が決まっているので、
家計の側も、数年後にいくらもらえるかということはだいたい予測がついているので、
現在のCash transferが起業確率に影響しているのか、将来のCash transferが起業確率に影響しているのかを検証することが可能になっている。


結果としては、現在のCash transferは起業確率に影響を与えないが、
将来のCash transferは起業確率に正の影響を与えている、というもの。
起業を阻害しているものとして、借入制約のストーリーは妥当ではなく、
むしろ失敗した時の収入のあてがないと起業できない、というInsuranceのストーリーと整合的、
というインプリケーションが得られている。


同じ年齢だけど違う学年の子供がいることの差が、
本当にCash transferの額のみを反映しているのかどうかは議論の余地がありうるところだが、
企業の阻害要因になっているのは、
借入制約じゃなく、失敗した時の収入の当てがないこと、
という新しい視点を提供している点で、非常に興味深かった。
やはり、現実を見る目を変えてしまえる研究、というのが面白い。


現実を見る目を変える論文、というか、現実の議論を変えうる論文と言えば、
最近のNBER Working Paper 16551の、
Property Rights and Financial Development: The Legacy of Japanese Colonial Institutions
http://www.nber.org/papers/W16551

韓国人留学生のJob Market Paperみたい。
日本統治下の所有権徹底が韓国、台湾、ミクロネシアの一部の経済成長に貢献したという実証研究の模様。
韓国人留学生が日本の統治下の好影響に関するペーパーを書いたことが結構驚き。
あるいは、韓国人だからこそ、かなり国内で反響を呼ぶであろうこのようなプロジェクトを行ったのかもしれない。
韓国で議論を呼びそうだが、
これまでの主観が入りまくる議論を超えて、
統計的なロバストさを議論するようになる段階に入れるかもしれない。