今学期のDevelopment seminar


しばらく更新が滞っていたが、
とりあえず、今学期のDevelopment seminarでのいくつかの有名人たちの発表。


Dave Donaldson (MIT)
"Weather and Death in India: Mechanisms and Implications of Climate Change"

1957年〜2000年のインドのDistrictレベルの温度、降水量と死亡率のデータを使って、
気温が死亡率に与えた影響を測定した研究。

天気が死亡率に与える影響としては、
直接的な影響として、
・暑さによる体への負担(心臓への負担:特に屋外での労働時)
・病原菌環境(マラリア、腸の感染症は高温多湿な状況で多発)
間接的な影響として、
・暑さによる農作物被害→農村所得減少→消費減少(資産など家計の消費標準化能力に依存)→死亡率上昇(健

康状態に依存)
という所得効果がある。

実証分析により、
・32度以上の日が10日増えると、死亡率は農村部1.3%上昇、都市部0.4%上昇
・降雨量が33パーセンタイル以下だと、死亡率は農村部3.2%上昇、都市部は影響なし
・高気温は農村部の乳幼児死亡率を上昇させるが、都市部の乳幼児死亡率には影響なし
・気温の死亡率への影響は、涼しい地域と熱い地域で有意な違いはなく、「暑さによる体への負担」仮説は当て

はまらない(暑さによる体への負担が問題なら、普段涼しくて暑さに慣れてない地域ほど体の負担が大きくなるはず)
・気温の死亡率の影響は、都市部では時系列的に低下してきたが、農村部は低下してきていない
マラリアに関しては、高温の時ほどマラリア原虫は減少しており、マラリアによる死亡と気温との相関もない
・農作物のGrowing seasonとNon-growing seasonで分けてみると、農村部における気温の影響はGrowing seasonに集中し、Non-growing seasonでは有意な影響は見られない。都市部ではGrowing seasonでも気温の影響は見られない。
・高温の日が増えると農業生産性や生産高が減少しており、高温による不作が観察される。低降雨量でも生産性

・生産高は減少。都市部では気温、降雨量と生産性の相関は見られない。
・生産性の減少はGrowing seasonにのみ観察される。
名目賃金も高温の日が増えると減少。
・銀行預金も高温の日が増えると農村部で減少、都市部では変化なし。
という結果が得られたことから、
気温上昇による死亡率上昇は、
おもに農作物の不作や、暑さで労働が困難になって農産物生産が低下したことなどによる
間接的効果(農村所得減少→消費減少)ものと推測される。
さらに、推定値を用いて、気候変動が起きた場合の死亡率を予測している。



Esther Duflo (MIT)
"Happiness on Tap: Piped Water Adoption in Urban Morocco"

ロッコでの家計の水道導入の意思決定とその結果に関する実証論文。
Kremerたちの井戸建設の研究では、人々のFoot costが結構高くて
清潔な水を提供する新しい井戸の利用が思ったより進まず、
健康へのインパクトも小さかった、
という結果だったが、
Foot costが高いのなら、家に直接水を引く水道ならインパクトが大きいんじゃないか、
というのがモチベーション。
そして、キャンペーンや融資の提供など導入を促進するRCTを行って導入に対する効果と導入のインパクトを測定

した。
結果は以下の通り。

  • キャンペーンなどの結果、導入率は69パーセンテージポイント増加(Treatment 69% vs control 10%)
  • 飲み水が塩素消毒されてる確率、体を洗うのに十分な水を使ってる確率、食器洗いに十分な水を使ってる確率

は上昇

  • 下痢など健康への効果は検出されず
  • 所得などへの効果も検出されず
  • 水汲みに費やす時間が少なくなり、近所・友人宅訪問などsocializationに費やす時間が増え、テレビなどの余

暇の時間も増えた

  • 水に関して家族や他の家族とconflictを持つ確率が下がり、social group/associationへの参加が増えた
  • 主観的評価については、Pr(mention water as major source of concern)は減少、Pr(home is cleaner)は上昇、Pr(life has improved)は上昇
  • 人々は引き続き水道料金を払っており、家計は満足していることを示唆。
  • 水道を導入した家計の近所も、調査終了時には水道を導入する確率が高くなっており、Learningの効果を示唆


融資の提供によって多くの家計が水道を導入し、quality of lifeも改善していることから、
Kremerたちの研究で示されたように、わざわざ井戸まで汲みに行かないといけない清潔な水への需要は大きくな
いが、
家で水道をひねれば出てくる便利で清潔な水への需要は結構大きく、
その効果も大きい、という結論。


Rachel Glennerster (MIT)
"Throwing the Baby out with the Drinking Water: Unintended Consequences of Arsenic Mitigation Efforts

in Bangladesh"
http://isites.harvard.edu/fs/docs/icb.topic891792.files/Glennerster%20Arsenic_InfantMortality_feb10.pdf

個人的にはこれがいちばん興味深かった。

バングラデシュヒ素汚染井戸が話題になって汚染井戸を使わないようキャンペーンを行った結果、
逆に下痢が増えて幼児死亡率が上昇したという話。
非汚染井戸が遠いので水使用量が減ったり非飲食用途に使うようになった井戸以外の水が下痢の原因。
ヒ素井戸でも飲まなければ問題ないから非飲食用途に使う分には問題なさそうなのだが、
ヒ素井戸には赤いマークが塗られて使用禁止のようなイメージを与えたうえに、
非汚染井戸は遠かったので、
非飲食用途に、バクテリアとかが含まれてる確率の高いsurface waterを使うようになってしまって、
食器にバクテリアがついたり体を洗う際にバクテリアが体内に入ったりして下痢になってしまった模様。
非汚染井戸が遠いから近くのsurface waterを使った、という話は、
上でちょっと触れた、井戸へのFoot costが大きいというKremerたちの研究とも整合的。

こういう「意図されなかった結果」を明らかにする研究は開発経済学の研究として大事だと思う。
フィールド調査で可能性に気付いて、それをデータを使って実証する仕事はいつかやってみたい。

以下、Abstract。
The 1994 discovery of arsenic in ground water in Bangladesh prompted a massive public health effort to test all tubewells in the country and convince nearly one-quarter of the population to switch to arsenic-free drinking water sources. According to numerous sources, the campaign was effective in leading the majority of households at risk of arsenic poisoning to abandon backyard wells in favor of more remote tubewells or surface water sources, a switch widely believed to have saved numerous lives. We investigate the possibility of unintended health consequences of the wide-scale abandonment of shallow tubewells due to higher exposure to fecal-oral pathogens in water from arsenic-free sources. Signifficant small-scale variability of arsenic concentrations in ground water allows us to compare trends in infant and child mortality between otherwise similar households in the same village who did and did not have an incentive to abandon shallow tubewells. While child mortality rates were similar among households with arsenic-contaminated and arsenic-free wells prior to public knowledge of the arsenic problem, post-2000 households living on arsenic-contaminated land have 27% higher rates of infant and child mortality than those not encouraged to switch sources, implying that the campaign doubled mortality from diarrheal disease. These findings provide novel evidence of a strong association between drinking water contamination and child mortality, a question of current scientiffic debate in settings with high levels of exposure to microbial pathogens through other channels.