Maturity, Indebtedness, and Default Risk

Reading Groupで


Chatterjee, Satyajit and Eyigungor, Burcu
“Maturity, Indebtedness, and Default Risk,” AER forthcoming.


を読んだ。


債務国の意思決定をモデル化して数量分析する際に、
これまでの研究では、
債務を借りて次の期に全額返済する(そしてまた新しく借りる)という
短期債務が想定されていたが、
長期債務を組み入れることによって、
モデルの現実へのフィットがかなり改善する、というもの。


マイクロクレジットのMaturityについて書いている論文があるので、
その参考にもなるかなと思って読んだ。
それと、Development macroの最近のLiterature、特に数値分析のLiteratureを、追っておきたいのもある。


長期債務は、
λの確率で次期に満期を向かえ、1−λの確率で満期を迎えない、
という形でモデル化している。
これにより、長期債務がある場合には、毎期同じように
「λの確率で次期に満期を向かえ、1−λの確率で満期を迎えない」
という状況に直面するので、
動学的最大化問題をシンプルなRecursiveな形で書けるようになる。


債務国は、毎期、借入額と返済を行うかどうか(債務不履行するかどうか)の意思決定を行う。
債務不履行すると、国際金融市場へのアクセスを失い(一定確率で再びアクセスできるようになる)、アクセスを失っている期間中、何らかの要因で所得も低下する(所得が高いと債務不履行による所得低下も大きくなると想定)。
債務不履行するかどうかは、現在の所得と債務残高に依存する(債務残高が多いと、債務不履行することの相対的なベネフィットが高まる)。


競争市場で決まる債務価格は、債務不履行の確率に依存するので、結局、所得と債務残高に依存する。
また、新規借入額は、現在の所得と債務価格によって決まるので、結局、所得と債務残高に依存する。


モデルをとくと、
・債務残高が増えるほど、債務不履行確率が高くなる
・債務残高が高いほど金利も高くなる均衡が存在する
という結果が得られる。


そして、
モデルのパラメータを、現実のデータの数値に合うように設定すると、
短期債務を想定している既存研究よりも、様々な点でデータへのフィットが良くなる。


たとえば、
(1)短期債務のモデルでは、現実のデータよりも消費のVolatilityやネットの輸出のVolatilityが大きくなるが、
長期債務のモデルでは、現実のデータに近い値が得られる。
(2)債務国の調達金利と国際金利とのSpread(モデルをデータとマッチさせている変数のひとつ)が、短期債務のモデルだとデータの半分程度だが、長期債務のモデルだとフィットする。


(1)の点については、
債務を増やすと債務金利も上昇するが、
長期債務の場合だと、残高を増やす分のみに新たな金利が適用される一方で、
短期債務だと、全額借り替えないといけないので、その全額に新たな金利が適用されてしまう。
その結果、短期債務の場合には、金利負担が大きくなって、
消費のVolatilityが大きくなる、
また、消費の減りが生産よりも大きい(生産が減ることで消費が減る効果と、生産が減って債務確率が高まり金利が上がる効果)ので、
ネット輸出のVolatility(生産−消費)も大きくなる。
長期債務の場合には、新たな金利が新たな債務にのみかかってくるのでこの影響が軽減され、
現実のデータに近い値が得られるようになる、
という仕組み。


また、(2)については、
短期債務では、全額借り換えて、その全額に新たな金利が適用されるので、
現実の債務額を導くような債務金利はそれなりに低くなければならず、そのためにSpreadが小さめになるが、
長期金利では、新規債務の分しか新規の金利が適用されないので、Spreadがより現実にフィットする、
というメカニズムが働いていると思われる。



さらに、長期債務のモデルで得たパラメータの下で、債務を短期にしてみると、
・Spreadが大きく低下
債務不履行率が大きく低下
した。
これは、
債務の利子率は債務不履行確率に依存するが、
短期債務だと、全額借り替えてその金額に新たな金利が適用されるので、
債務不履行確率が低くなるように借入額を抑える結果、
低い債務不履行率 → 低い債務利子率 → 低いSpread
というメカニズムが働いているためである。


これらの結果から、
長期債務の場合は、短期債務の場合に比べて、
(1)Volatilityは低い
(2)借入コストが高い(高い債務利子率)
(3)債務不履行率が高い
という特徴が出てくる。
そして、短期債務と長期債務の場合のWelfareを、与えられたパラメータから比較してみると、
短期債務の方がWelfareが高い、というやや驚くべき結果が得られる。
つまり、(1)のVolatilityが低いという長期債務のベネフィットを、(2)の借入コストが高いというコストの方が上回っている、ということだ。

すると、なぜ途上国はそれでも長期債務を借りているのか、という疑問が出てくる。
しかし、それに対しては、
短期債務が何らかの理由によりRolloverできない、という可能性を考慮すると、
Rolloverできないと債務不履行してしまうので債務残高を減らすようになり、
短期債務の場合のWelfareが低下する結果、長期債務のほうがWelfareが高くなる(ただしその差はあまり大きくないが)、という結論を導き出している。
つまり、短期債務の場合には、利子率は低いが、Rollover crisisによる債務不履行を避けるため借入額を小さくしなければならないので、
利子率が高くても借入額を大きくできる長期債務の方が好まれることになる。


モデル自体も(Computationは別にして)シンプルで、
貢献自体も、長期債務をモデルに入れる、という、なぜこれまでやられていなかったのか不思議なくらいのもの。
だからこそ、これからの教科書には必ず出てくるようになる超有名な研究となるかも。