NEUDC 2012

NEUDC 2012から帰ってきた。
面白いと思った論文について、以下、出張報告書から抜粋:




Identifying Information Asymmetries in Insurance: Experimental Evidence on Crop Insurance from the Philippines
Snaebjorn Gunnsteinsson; Yale University

Crop Insuranceで、逆選択モラルハザードを、フィールド実験により別々に推計した論文。農家はいくつかのPlotを持っているが、最初にPlotを登録してもらい、その後、保険に入れたいPlotを選んでもらって、Randomizationを行う。Group Aでは保険に入れたいと選んだPlotが保険対象になるが、Group BではどのPlotが保険対象になるかはRandomに決定される。その結果、保険に入れたいと選んでもらったPlotでは保険の有無に関わらず平均的な作物被害額が高いので逆選択の問題があることが示された。病害虫による被害に関しては、保険に加入したことで病害虫被害が増えるというモラルハザードの問題も見られたが、台風などの天候被害に関してはモラルハザードがおきている証拠は見出せず、逆選択のみなので、政府が天候被害に関して補助金を与えて保険を提供することは可能そうである。


Endogenous Insurance and Informal Relationships
Xiao Yu Wang; MIT
マッチング理論を使って、リスク回避的な人がリスク回避的な人とInformal risk sharingを結ぶPositive Assortative Matching(PAM)が起こる条件、リスク回避的な人がリスク愛好的な人とInformal risk sharingを結ぶNegative Assortative Matching(NAM)が起こる条件を導出。政府が保険を提供することにより、ショックの度合いが少なくなるので、それがInformal risk sharingのマッチングにも影響を与えることを明示的に示した論文。この理論をテストするための実証分析の枠組みも提供されている。ただ、One-to-One Matchingを仮定しているが、実際にはOne-to-Manyの可能性もあり、One-to-Manyになることでリスクもプールされるので、全体のマッチングにも影響を与えるはずであり、それによって実証分析による理論のテスト自体も変わってくるはずなので、今後、この点での拡張が求められるはずである。


Factory Farming: The Impact of Agricultural Output on Local Economic Activity in India
Samuel Asher; Harvard University
農業の発展が地元企業の発展にどのような影響を与えるかを、インドの企業データと降雨量データを用いて実証した論文。農業の発展により、賃金が上昇するなど企業の成長に対して負の影響がありうる一方で、地元の需要が増大して企業の成長に貢献したり(Demand Channel)、農業部門での貯蓄が増えてそれが工業部門の投資に使われたりする(Capital Channel)可能性がある。実際の農業生産はわからないので、Proxyとして、降雨量の適切さを使っている。その結果、降雨量が適切だった地域では企業の雇用や投資が大きくなっており、輸送費用が大きく企業の需要が地域の需要に大きく左右されるような地域で企業の雇用が大きくなっているわけではないことから、Capital Channelの可能性を示唆している。細かな企業データがあるはずなので、Demand Channelではないことをサポートするために、需要の所得弾力性が高い企業と低い企業とを比較するとさらに説得力が増すのではないかと思う。


A Market for Lemons: Maize in Kenya
Vivian Hoffmann; University of Maryland
暑さや旱魃のストレス、害虫、不適切な貯蔵などにより、メイズには毒性物質aflatoxinが含まれるようになる可能性がある。この毒性物質は、癌や発育不全などの要因ともなっており危険性が認識されているが、無味無臭なため、消費者には分かりづらい。消費者がaflatoxinの存在を分からないので、aflatoxinのないメイズに対して高い価格がつかず、結局市場には劣悪な財しか供給されないというアカロフのレモン仮説を、ケニアのデータを用いて実証した論文。自家消費しているメイズと比べ、販売されたりアルコール飲料の生産に使われるメイズではaflatoxinの量が多いことが示され、アカロフのレモン仮説と整合的な結果が得られている。情報の不完全性の研究は、近年、金融市場、保険市場において多くの研究成果が見られているが、途上国の農産物市場においては、近年、残留農薬や汚染土壌、偽肥料や偽ハイブリッド種子など、情報の不完全性に起因する問題の重要性が増してきており、こうした生産物市場においても、情報の不完全性の研究、およびそれに対する介入政策の研究が進められていくべきであると感じた。